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東京高等裁判所 昭和27年(ネ)812号 判決

原判決中、控訴人の反訴請求を棄却した部分及び反訴につき生じた訴訟費用を控訴人負担とした部分はこれを取消す。

被控訴人は控訴人にたいし、金十五万七千円及びこれにたいする昭和二十六年十一月三十日から支払済にいたるまで、年五分の割合による金員を支払うべし。

訴訟費用中、反訴につき生じた部分は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は、控訴人において金五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

二、事  実

控訴代理人は主文第一ないし第四項同旨(ただし第三項の金額の支払を命ずる部分が理由ないときは金五万四千円を支払うべし)との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は、控訴代理人において、控訴人は被控訴人にたいし、本件反訴をもつて、不法行為による損害賠償として、控訴の趣旨記載のとおり金十五万七千円及びこれにたいする遅延損害金の支払を求めたが予備的につぎの請求をする。

一、(1)  被控訴人は本件株式を控訴人名義に書換えるため、株券を訴外東北パルプ株式会社に控訴人の名をもつて預けていたので、控訴人は訴外会社を相手方として東京地方裁判所にたいし、株券占有移転禁止仮処分命令を申請し、昭和二十六年四月十二日その旨の仮処分決定を受け、同年同月十四日その執行をしたので、本件株券は東京地方裁判所所属執行吏の保管するところとなつた。

(2)  しかるに被控訴人は控訴人を相手どり、右仮処分の目的物に対する第三者異議の訴を提起し、かつそれにもとずく仮処分執行の取消決定を申請して昭和二十六年十一月二十二日東京地方裁判所よりその旨の決定を受け、同年同月二十五日訴外会社から本件株券の交付を受け、ついで同月二十九日これを訴外柴田重太郎に譲渡して引渡し、株主名義を同人名義に書換えてしまつた。

(3)  しかし、被控訴人は右第三者異議の訴を昭和二十七年九月五日取下げたので、民事訴訟法第二三七条により、訴訟ははじめより繋属しなかつたことになつたから、被控訴人の申請により右訴訟の存在を前提としてなされた仮処分執行の取消決定も当然当初からその効力を失つたものである。

(4)  してみれば、本件株式については、控訴人のした占有移転禁止の仮処分がはじめから存在することとなるから、本件株券は前記執行吏の保管にもどすべきものである。

(5)  そして右の場合は、仮執行宣言にもとづく強制執行の後その宣言が失効した場合に近似しているから、民事訴訟法第一九八条第二項を類推適用すべきものであつて、被控訴人は本件株券を右仮処分の原状に回復させる義務、すなわち返還義務がある。しかし右株券は被控訴人においてすでに第三者に譲渡し、引渡され、これを返還することは不能となり控訴人は本件株主権を失い、当時の時価相当の損害を被むつた。

(6)  そして右損害額は、反訴の第一次請求において主張するところと同一であるから、右と同額の損害賠償を求めるものである。

二、仮に右予備的請求が理由ないとしても

(1)  訴外会社は昭和二十七年一月十日現在の株主にたいし、その所有株式一株にたいし、一株の割当比率で再評価積立金の資本組入に関する法律の規定にもとずき、同年二月二十五日いわゆる無償株式を発行、交付したから、本件株式の名義人であつた控訴人は当然右無償新株式五百株を取得できたはずである。

(2)  そしてたとえ、被控訴人が本件株式の有効な質権者であつたとしても、被控訴人はいわゆる登録質権者ではないから、右無償交付新株式をその質権の効力をもつて取得することはできない。それはあくまでも本件株式の名義人で、かつ所有者である控訴人の取得すべきものである。

(3)  しかるに被控訴人は、前記のごとく仮処分中の本件株券を不当な仮処分執行取消決定(訴の取下によりその正当性が証明されない、) をもつて手に入れ、株式を他に売却処分し、控訴人名義の偽造白紙委任状を使用して他人名義に変更してしまつたため、控訴人は右新株式五百株を取得できなかつた。

(4)  よつて控訴人は右新株式の昭和二十七年十月二十九日東京証券取引所における仲値金五万四千円(一株金百八円)相当の損害を受けたので、被控訴人にたいし、その賠償を求めると述べた。<立証省略>

被控訴代理人において、被控訴人が昭和二十六年十一月二十二日控訴人主張のとおり、仮処分執行取消決定を受けて本件株券にたいする控訴人の仮処分執行を取消したこと、右仮処分執行取消決定を受けた後、その本訴たる仮処分の目的物にたいする第三者異議の訴を取下げたことはこれを認めるが、その余の控訴人の主張はすべて争うと述べた。<立証省略>

三、理  由

成立に争のない甲第一、二号証第四号証の一、二、控訴人の印顆による印影については成立に争がなく、その余の部分については成立に争のある甲第五号証の一ないし四、原審証人高木保二の証言により成立を認めうる乙第一、二号証、原審証人金子勇、高木保二、佐野円一、渡沼百太郎(第一、二回)の各証言および原審における当事者双方各本人尋問の結果を綜合すると、つぎの事実を認めることができる。

控訴人はかねて訴外大越証券株式会社(以下大越証券という)に、東北パルプ株式会社株式その他の株式の買付を委託していたが、昭和二十六年三月五日頃、大越証券から東北パルプ株式会社株式五百株の株券(このうち百株券四枚、甲第七〇一六号ないし第七〇一九号は、大正海上火災保険株式会社の白地裏書あるもの、うち百株券一枚甲第八五六五号は共和証券株式会社の白地裏書あるもの、ただし、この括弧内記載の事実は当事者間に争がない)を他の会社の株券とともに交付を受けたこと、控訴人は同証券会社の取締役高木保二のすすめによりこれを控訴人名義に書換えることとし、その頃右株券を高木に託したが、高木はその翌六日、社員金子勇をして控訴人宅で、この手続に必要な控訴人名義の株式名義書換請求書を作成させたこと、高木は大越証券が資金に苦しんでいるところから控訴人に無断でこの株券を一時流用して他から金融を受けようと考え、前記のとおり金子勇をして控訴人名義の株式名義書換請求書を作成させる際、控訴人に無断で株式名義書換用白紙委任状用紙に控訴人の印章を押捺させ、もつて控訴人名義の株式名義書換用白紙委任状数通の偽造をとげたこと、しかして大越証券は控訴人のためただちに名義書換手続をなすべきであるのにかかわらずこれをなさなかつたものであるが、同会社代表者佐野円一は同月八日訴外渡沼百太郎より金十七万円を借入れるにつき他の会社の株式とともに本件株式に質権を設定し、株券を渡沼に交付したこと、その際、佐野は渡沼にたいし株券とともに控訴人名義の株式名義書換請求書及び偽造株式名義書換用白紙委任状を交付し、控訴人に利益配当を受領させるためと称して本件株式を控訴人名義に書換えることを依頼し、渡沼はこれを承諾したこと、しかるに渡沼もまた控訴人のため名義書換手続をしないで、渡沼が同日被控訴人を受取人として振出した約束手形金三十万円の債務につき他の会社の株式とともに本件株式に質権を設定し、株券を被控訴人に交付したが、その際同時に控訴人名義の株式名義書換請求書及び偽造白紙委任状を被控訴人に交付し、株式を控訴人名義に書換えることを依頼し、被控訴人はこれを承諾したが、同人は本件株式は渡沼が大越証券から担保として取得したものを被控訴人に転質するものであることを渡沼から告げられて知つていたこと、そして被控訴人は右依頼にもとずいて同年三月二十九日本件株券を控訴人名義に書換手続をしたものであること。

以上の事実関係によると、大越証券が本件株式を他に質入れする権限を有しないことは明かであるから、大越証券の代表者佐野円一が本件株券を債務の担保とする意味で訴外渡沼に交付しても(商法第二〇七条第一項参照)、渡沼は、大越証券の無権限にかかわらず質権を取得する事由のともなわないかぎり、質権を取得する道理はないのである。

ところで、本件株券には株式名義人の白地裏書があり、また控訴人の名義書換用白紙委任状が添付されていたこと前段説示のとおりであり、昭和二十六年三月当時に、記名株式の所有者が、その株式の名義書換に必要な白紙委任状を作つて、これを株券にそえて、任意に、他人に交付すると、その理由如何にかかわらず、その後善意無過失に株券及び白紙委任状を取得した者はその株式について権利を取得するという商慣習法の存したことは、公知のことである故に当裁判所に顕著であるから、渡沼は、昭和二十五年法律第一六七号による改正前の商法第二二九条によつて株券に準用される小切手法第二一条によつてか、または前記商慣習法の適用によつて、質権を取得したのではないかとの疑問を生ずる。

しかし、大越証券から渡沼への株券の交付は、ただ株券のみの交付ではなく、控訴人名義の名義書換請求書と控訴人名義の株式名義書換用白紙委任状をそえて、本件株式を控訴人名義に書換える手続をすることの委託とともになされ、渡沼はこの委託を承諾したのであること前段説示のとおりである。この控訴人名義書換請求書を添付して名義書換手続を委託すると同時に控訴人名義の白紙委任状をもそえて株券を交付したという事実は、これを全体として観察すれば先ず委託の趣旨にもとずき控訴人名義に株式の名義を書換えた上、この名実ともに株式の権利者となつた控訴人からあらためて株券にその白紙委任状をそえて転輾その処分を委託されるものと経済上の意味は同く同様であつて、両者はこれを同視すべき取引行為というべく、事にあたつた当事者の意思も右のような順序をふむことに代えて名義書換の委託と株券の交付とを同時に行うことにより、これと同様の効果をえようとしたものと解すべきであり、現実の名義書換のなされたのが控訴人名義の白紙委任状附株券の交付の前であると後であることによつてこれを別異に扱うべきものではない。もしそうでなく、たんに問題の株式を有効に処分することだけが当事者の意図であるとするならば、わざわざ控訴人名義の白紙委任状を偽造してまでこれを添付する必要はすこしもないのであつて、当初の名義人の白地裏書だけで転輾させればよいこと商法上明らかであり、証券取引に通じた大越証券や渡沼がこのことを知らないはずはないからである。本件が質権設定の場合であつて、株式の譲渡ではなく、したがつて控訴人が一方において配当を受けるため自己名義書換を請求すると同時に他方金融のためにこれを質入するという外観を呈することは、むしろ前記の趣旨にいつそうふさわしいものであつて、もとよりこれにむじゆんするものではない。したがつて、この場合、小切手法第二一条の準用ある場合でなく、前記商慣習法の適用ある場合といわなければならない。しかるに、前記商慣習法によつて権利を取得するには、交付をうけた株券添付の名義書換用白紙委任状は真正に成立したものでなくてはならないところ、右白紙委任状にあたる控訴人の名義書換用白紙委任状が偽造にかかるものであると前段認定のとおりであるから、渡沼は商慣習法によつても、質権を取得することはできなかつたと認めるほかない。

つぎに、渡沼が本件株券について、質権を取得しないこと、右に説明したとおりであるから、前段認定のようにさらに渡沼から質権の設定をうけた被控訴人は、小切手法第二一条の準用によるか、前記商慣習法によるかのほか本件株式につき質権を取得する道理はない。ところが、渡沼から被控訴人への本件株券の交付質入の行為は、大越証券から渡沼へそれと全く同じ様式で行われたこと、前段説示のとおりであるから、被控訴人もまた、小切手法第二一条によつても、商慣習法によつても、質権を取得しないこと、渡沼について説明したところによつておのずから明かである。

被控訴人が昭和二十六年十一月二十六日本件株券を一株金三百十四円、合計十五万七千円で他に売却しこれを引渡したことは、当事者間に争がなく、これによつて控訴人が株主権を失つた旨の控訴人の主張は被控訴人の明かに争わないところであるから自白したものとみなすべく、また、右は少くとも被控訴人の過失によるものと認めるのが相当である。したがつて、被控訴人はその行為によつて控訴人に与えた損害を賠償する義務を負うものであり、その損害額は、前記のように被控訴人が本件株券を他に売却した際の代金額に徴し、金十五万七千円と認められる。

したがつて控訴人が被控訴人にたいし、右金額及びこれにたいする損害発生の日の翌日たる昭和二十六年十一月三十日以降支払済にいたるまで、年五分の遅延損害金の支払を求める本件反訴請求はその余の控訴人の主張について判断するまでもなく正当であるからこれを認容しなければならない。

よつて原判決中、控訴人の反訴請求を棄却した部分は不当であるからこれを取消し、民事訴訟法第三八六条、第八九条、第九六条、第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)

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